虚人譚

虚人がヒロインピンチやその他のことについて記しておく場所。

特警機甲フォージアン

特警機甲フォージアン Phantasmagorie その3

その2
 私がメルツから着信を受け取ったのは、その日の午後だった。

「……確かにあなたは被験体301および298の回収に失敗しました。功を焦る気持ちもわかります、メルツ。しかし……」

と私は言った。

「ここは慎重を期すべきです。フォージアンとの対決は、私が到着してからにしてください。先生もそれを望んでいます。」

「お前を待ってたら被験体がまた破壊されちまうぜ。ユーリ」

兵士に監視させればよいでしょう」

「この前はその兵士に任せてたから失敗したんだろう!!」

端末の向こう側から怒号が聞こえた。

「そんなこと言って、手柄を横取りするつもりだろう?センセイのお気に入りが!被験体の回収は俺の役目だ!」

「ですが……」

「鉄屑ひとつスクラップするだけだろう。俺一人で十分だ!じゃあな!!」

説得を続けようとしたところで通話が途絶えた。私は溜息をついて端末をしまう。彼は誤解をしている。私は確かに先生の秘書だ。しかし、けしてそれ以上の存在ではない。これまでのデータの蓄積により判明している戦闘能力から考えて、メルツがフォージアンに敗北するなどとは私は微塵も考えてはいない。彼の実力は私たち12人の中でも屈指だろう。ただし……唯一の、かつ最大の欠点が彼にはある――詰めの甘さ。しかも度重なる任務の失敗によって、彼は苛立っている。

「フォージアン……か。」

私たちの事実上唯一の敵にして、恐らく私たちと出自を同じくするであろう紅い戦闘兵器。だが、それ以上のことを先生は私たちには教えなかった。「彼女」の目的が何かも。いずれにせよ彼女の登場以降、私たちの計画に遅れが出ていることは間違いない。けして油断してよい相手ではない。私はすぐに、出発するための支度を始めた。

続きを読む

特警機甲フォージアン Phantasmagorie その2

その1

「――喋りすぎではないかしら、シスル」

いつの間にか結城さんが腕を組んでこちらを見ている。

『そうかい。そもそも僕は、セキュリティレベルにおいて許可されている範囲の情報しか伝えることはできないんだけどね……まあ、麗華も来たことだし、ここで本題に入ろう』

モニターに首都圏の地図が映し出される。

続きを読む

特警機甲フォージアン Phantasmagorie その1

第一話

 維新の三傑の一人として知られる西郷隆盛は、実際には上野公園に立つ銅像とは似ても似つかない風格であったという。でも北海道出身の田舎者にとっては、そんな事実は全くどうでもいい問題で、東京を象徴する観光スポットのひとつ、上野公園の西郷隆盛像を、僕はひたすらぱしゃぱしゃと撮っていた。しかし写真を撮った良いが誰に送る?こっちで出来た知人友人は、(約1名の不明者を除いて)すべて東京出身者である。少し迷った末、とりあえず実家に送ることにした。送信ボタンを押すと、ちょうど公園の階段を上ってくる人物が目に入った。

黒いロングヘアーが風になびく。いつもと同じように、その端正な顔立ちに不機嫌そうな表情を浮かべた結城さんだった。

「待った?」

手を振る僕を見つけて彼女が聞いた。白いノースリーブのブラウスにデニム地のパンツ。普段通りにそっけないファッションだが、スリムな身体によくフィットして似合っている。

「いや、僕もさっき着いたところ」

「そう」

実際は30分前に着いていたのだが。

結城さんが、あたりの観光客を見回して不思議そうに言った。

「どうして西郷隆盛を撮っているのかしら。あの像の写真なんてプロが撮ったものがいくらでもあるのに」

「う、うーん……」

どうやって取り繕うべきかを考える。

「多分、自分が来たっていう証明みたいなものじゃないかな?思い出、というか……」

「マーキングみたいな?犬の」

僕は、実は自分もさっき撮っていたとのだいう言葉を飲み込んだ。

 さて、どうして僕が結城さんと、上野公園でこんなデートまがいの待ち合わせをしていたのかというと――。

続きを読む

特警機甲フォージアン Prologue その4

その1 その2 その3
 
 夏至を間近に控えた6月の太陽が漸く斜めに傾き、西の空がサフラン色に染まった頃。

上空で旋回を繰り返す黒と黄土色の巨大な蝶の目の前に現れたのは、再起動を完了させた深紅の戦士――フォージアンだった。メタルスーツのシステムは回復し、正常に稼働しているもように見えるものの、完全に元通りに修復できたとはいえず、左腕の傷や身体の焦げ跡はそのままである。

『来なさい――私は逃げも隠れもしない』

フォージアンは巨蝶に向かい挑発的に宣言すると、工場の中に姿を消す。まるで誘っているかのように。

手負いの獲物に、この期に及んでどんな小細工が出来るのだ――?と巨蝶は考えたに違いない。まぁ、そろそろいいだろう。あいつがどんな抵抗をしたとしても無駄だ。自分はあの極上の深紅の花弁を蹂躙し、カラカラになるまで吸い尽くしてやるのだ。

 勝ち誇る蝶はフォージアンを追って工場に飛び込む。狩るべき対象は追わなければならぬ。それは彼自身に埋め込まれたプログラムのひとつでもあった。

工場内は明り取りの窓がすべて閉められており、薄暗かった。突然ギィ――という音とともに扉は閉じられ、内部は暗闇となる。閉じ込めたつもりか――?しかしそれは自分にとっても好都合だ。相手はもはや袋の鼠。暗闇はむしろ相手の視界を疎外する。だが、相手の姿は自分からは丸見えだ。巨蝶の複眼が、光を放つフォージアンのメタリックボディを捉える。さっさと決着をつけてしまおうと翅を広げ、自身の必殺攻撃――鱗粉を放射する。再び深紅のボディが黄土色の粉で覆われ……爆発する!!

パン!!パン!!パン!!パン!!

さっきと同じではないか――学習能力はないのか?巨蝶は訝しんだ。確かに前回とは違い、腕をクロスしてガードの姿勢を取ってはいる。しかし、傷ついたスーツに追い打ちのように浴びせかけられる爆弾には到底耐えられまい。実際、衝撃で脚がよろめいていて、徐々に後退していっているじゃないか。

巨蝶の考えどおり、フォージアンはついに立っていることさえできなくなり、全身から白煙を立ち上らせながら膝をつく。獲物をしとめようと、蝶はフォージアンに飛びかかっていく。灯りに群がる虫の本能もあったに違いない。巨大な翅が光を放つ赤い花弁に覆いかぶさろうとしたとき……。

――高圧の水流が大量に、巨蝶に向かって放たれた。

続きを読む

特警機甲フォージアン Prologue その3

その1 その2

「ふう……、よかった。水道が生きていて」

僕は工場の隅に水道の蛇口を見つけ、全身についた石灰を洗い流していた。服についている分は、まあ仕方がないだろう。帰りの電車で目立つだろうけど。

結城さんは腕を組んで、そんな僕を汚いものを見るような軽蔑の視線でじっと見ている。

「どうして、ここにいるの?」

まっすぐに追及され、逃げ場がなくなった僕が観念し、今日の出来事をすべて正直に話し始めると、結城さんはみるみる僕を見下すような顔になっていった。それから彼女はずっとこの視線なのだ……。

続きを読む
ギャラリー
  • ドイツ語版キューティーハニーの歌詞
  • 特警機甲フォージアンについて