その2
 私がメルツから着信を受け取ったのは、その日の午後だった。

「……確かにあなたは被験体301および298の回収に失敗しました。功を焦る気持ちもわかります、メルツ。しかし……」

と私は言った。

「ここは慎重を期すべきです。フォージアンとの対決は、私が到着してからにしてください。先生もそれを望んでいます。」

「お前を待ってたら被験体がまた破壊されちまうぜ。ユーリ」

兵士に監視させればよいでしょう」

「この前はその兵士に任せてたから失敗したんだろう!!」

端末の向こう側から怒号が聞こえた。

「そんなこと言って、手柄を横取りするつもりだろう?センセイのお気に入りが!被験体の回収は俺の役目だ!」

「ですが……」

「鉄屑ひとつスクラップするだけだろう。俺一人で十分だ!じゃあな!!」

説得を続けようとしたところで通話が途絶えた。私は溜息をついて端末をしまう。彼は誤解をしている。私は確かに先生の秘書だ。しかし、けしてそれ以上の存在ではない。これまでのデータの蓄積により判明している戦闘能力から考えて、メルツがフォージアンに敗北するなどとは私は微塵も考えてはいない。彼の実力は私たち12人の中でも屈指だろう。ただし……唯一の、かつ最大の欠点が彼にはある――詰めの甘さ。しかも度重なる任務の失敗によって、彼は苛立っている。

「フォージアン……か。」

私たちの事実上唯一の敵にして、恐らく私たちと出自を同じくするであろう紅い戦闘兵器。だが、それ以上のことを先生は私たちには教えなかった。「彼女」の目的が何かも。いずれにせよ彼女の登場以降、私たちの計画に遅れが出ていることは間違いない。けして油断してよい相手ではない。私はすぐに、出発するための支度を始めた。

 
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 麗華は、幻影の壁の向こう側で、青年が階段を駆け上がっていく音を聞いていた。タンタンタンと音がしては途切れ、また少し音がしては途切れる。足音が全く聞こえなくなったことを確認すると、彼女は振り返り、暗視スコープが内蔵された自身の瞳で洞穴の先を見た。土の地面に、いくつかの白い欠片が散らばっている。欠片の分子構成を解析して麗華は顔を顰めた。息を吐いて、胸に手を当てる。紅い光が、彼女の細いしなやかな身体を、硬い無機質なアーマーへと書き換えていった。

 

 フォージアンは、暗い洞穴の中を慎重に進んでいく。しばらく進むと洞穴は行き止まりになっていて、その右側にまた横穴があった。その奥でわずかながら物音がする。彼女が音のした方向に顔を向けると――「イドラ」はそこにいた。

アリジゴクを模したその身体は半分地中に埋まっている。フォージアンが戦闘態勢をとるとイドラも敵の侵入を察知したらしい。その身体から無数の触手のような腕が突然生え、メタリックボディの女戦士に襲い掛かった――。

 

『ジルベスター!スラッシュモード!』

フォージアンが腿のホルスターから愛用の武器を抜くと、光り輝く刀身が現れる。迫りくる触手。しかしフォージアンのバイザーは、その殆どが幻影であることを捉えていた。襲いかかる虚構の腕の攻撃は全て無視し、その実体だけを確実に切り裂く。鋭敏化された運動機能によって。

ズバッ!ズバッ!ザシュッ!

キィィィィィ!!という機械音のような嘶きが狭い洞窟に響いて、丸裸になった本体が現れた。紅い狩猟者の刃から逃れようとするかように、もぞもぞと動いている。

『……哀れね。でも、同情は出来ないわ』

深紅の女戦士は標的に留めをささんと、ジルベスターを前に突き出した――その瞬間だった。

 

黒い影が現れた。フォージアンが振り向く間もなく、その影は驚異的なスピードで突進し、フォージアンの身体を突き飛ばす。激しい衝撃音。重甲なアーマーに守られているはずの身体はマネキン人形のように跳ね上がり、洞窟の壁に激突した。脆い土壁から小石がぱらぱらとこぼれ落ちてくる。

『……グッ』

フォージアンは身体を起こし、攻撃の主を見る。

「……散々、俺たちのシマを荒らしてくれたようじゃねえか。フォージアン」

黒い鉱石風の鎧に全身を包まれた人間がそこに立っていた。黒い兜からは残忍そうな瞳と下卑な笑いを浮かべる口元だけがわずかに覗いている。

『……どうして、私の名前を』

「おいおい、それはないぜ。お前も遅かれ早かれ、俺たちに気づかれることは分かっていたんだろう?」

『……そうね』

フォージアンはゆっくりと身体を起こした。

「そして……、自分がここで壊されることもな!!」

黒い鉱石男――メルツが、紅い女戦士に突進する。フォージアンは光り輝く剣を振って、その進撃を食い止めようとする。

ブォォンッ!

メルツの黒い腕がジルベスターの斬撃を受け止めた。その腕は、鋼鉄を豆腐のように切り裂くはずの刃を受けても傷一つつかず、逆にその刀身を弾きとばす。

しまった――と麗華が思った瞬間、もう片方の黒い腕がフォージアンの首を掴み、その身体を壁に叩きつける。

『……ッ!?』

フォージアンは両手で、自身を拘束する黒く太い腕を掴み、逃れようとする。だが、どんなに力を込めてもその腕はビクともしない。昆虫標本のように固定された紅色の女戦士。そのマスクを、メルツはもう一方の拳で力まかせに殴りつける。

ガンッ!ガンッ!ガンッ!

並の人間の頭蓋骨なら一瞬にして砕ける威力で、何度も何度も叩きつける。

「意味のねぇくだらねぇ邪魔しやがって!鉄屑人形が!お前一人のカスみたいな力で!俺たちの計画を!止めることなんて!できるわけねえだろう!!」

メルツが言葉を発するたび、フォージアンの頭が左右に振られていく。いくら特警機甲のマスクが強靭だとはいえ、その衝撃をすべて吸収することはできない。麗香の脳は激しく揺さぶられ、何度も意識が飛びそうになる。その装甲にもわずかながら罅や陥没がみえ始めていた。

「何をしたいのか知らねぇが、お前のやってることは、無駄なんだよ!!」

ガンッ!!

メルツの拳が、フォージアンのマスクの正面を捉える。ミシミシとバイザーに亀裂が走り、フォージアンの視界が阻害される。同時に首を掴んでいた手を放すと、紅色の女戦士がゆっくりと崩れ落ちていく。

「……もっとも」

と、メルツはしゃがみこんだ。

「……今までのことに侘びを入れて、俺と一緒について来る気があるなら、俺専用のメイドロボットとして飼ってやってもいいんだぜ?」

『……私は』

洞窟の底に横たわる女戦士から音声が漏れる。

『……私は、必ずお前たち全員を抹殺する。それが私の使命よ。』

亀裂が入ったバイザーの奥、瞳を模した発光機が輝いた。

「……そうか」

苛立つような、呆れたような声を出して、メルツが立ち上がる。そして、ジルベスターによって先ほど切りおとされ床に落ちた触手の切れ端を手に持つと、フォージアンの手足を大の字に、仰向けに拘束し始めた。

『何を……?』

「……実験だ」

黒い戦士が、フォージアンを見下ろすように立つ。

「鉄屑ダッチワイフの、アソコはちゃんと「女」なのかっていうな!!」

そう言い放つや否や、フォージアンの腰のアーマー中央部分、ちょうど股の間に、黒い拳をハンマーのように振り下ろす。

ガン!ガン!ガン!!

『……ヒッ』

バイザーに映し出された情報を見て、思わずフォージアンから小さく弱々しい声が漏れる。アーマーは10撃目で亀裂が走り、1520と何度も殴られているうちにその亀裂はどんどん大きくなっていく。フォージアンは拘束から逃れようとガタガタと身を揺らすが、それも徒労に終わる。

バリン!!

ついに、紅いアーマーの一部が砕け、装甲内部の様々な配線や回路が露わになる。メルツはその中に手を伸ばし、ガチャガチャと内部機構を引きずり出していく。

『やめな……さい!』

フォージアンのバイザーには、自身の身体についての危機的な情報が映し出されている。

「安心しな。もう少しだからよ。……ん、こりゃぁすげぇ」

メルツは黒い鎧の下で唇を下卑に歪めた。

「……鉄屑の下に、生体組織があるとはなぁ?」

『……ッ』

麗華はマスクの下で唇を噛んだ。そこは機械化された彼女の身体の中で数少ない、いまだ彼女自身を保っている部分だった。

「しかし……これは使えるのかぁ?」

メルツは、回路や配線を押しのけて、そこに開いた麗華自身に黒い指を突っ込んでいく。フォージアンの瞳の発光器が、瞬間的に点滅する。そのまま何度かゆっくりと抜き差しすると、次第にくちゅ…くちゅ……と、湿った音が聞こえてくる。

「おっ、ちゃんと使えるようだな。じゃあ……」

メルツは一旦フォージアンの中から指を抜くと、自身の鎧の股間をムクムクと伸ばしていく。そして、黒い鉄の棒を思わせるそれを、一気にフォージアンへと突き刺した。

『…………ぁ』

機械部品がクシャグシャと壊れていく音や、肉と肉がこすれ合う音がして、フォージアンの背中がびくんと弓なりに反り、紅いマスクの顎があがった。メルツの黒い肉棒は、たちまちフォージアンの最深部まで達した。身体を駆け巡る異物感。しかしその感覚は一瞬だった。メルツは一気に腰を引くと、何度も奥壁を突きだしたのだ。

『………ッ』

感覚の種類が変わった。黒い戦士が腰を振るたびに、その黒色の凶器はフォージアンの中で暴れ回った。ピストン運動による絶え間ない刺激は、電気信号に変換されて麗華の脳にまで達する。憎むべき敵に四肢を拘束され、なすすべもなく貫かれる。それは途方もない屈辱なはずなのに、脳に達する信号は正真正銘の快感でしかない。麗華はマスクの下で顔を歪め、怒涛のように押し寄せてくる快楽刺激に、必死に耐え、声を押し殺すことしかできなかった。

「おいおい、ガマンしていつまでもポーカーフェイス続けなくてもいいんだぜ?」

メルツは紅色のサイボーグ戦士を犯すことを続けながら、嗜虐的な笑みを浮かべた。

「お前の身体が今どうなっているのかは、ちゃ~んと分かっているんだからな!」

そう言って、フォージアンの胸部アーマーの中央部分に設置されたディスプレイを見る。紅いメタリックボディの中でも特に目を引くフォージアンのメイン・ディスプレイは、今やさまざまな警告メッセージが表示され、女戦士の危機的な状況を示していた。そして、メルツが腰を動かすたび、それに呼応するかのように激しく点滅する。

「ほら……感じているなら感じているって認めちまったほうが楽になるぜ?」

黒い戦士は身をかがめると、フォージアンのメイン・ディスプレイを愛おしそうに撫で、舌を出して舐めた。

べちゃっ……ぬちゃ…ぬちゃ……

滑らかなメイン・ディスプレイが、たちまちネットリとした白い唾液で汚されていく。

『……ああぁッ!!』

突然、胸が灼かれる激痛を感じてフォージアンが叫んだ。胸のディスプレイ、涎で汚された部分から、シュウシュウと白煙があがっている。メルツの唾液に含まれている、腐食作用を持つ強い酸。それが、フォージアンのメタルスーツの表面を少しずつ灼いていく。

自分の身体の延長であり、自分を守ってくれるはずの紅色のメタリックボディが、内側でも外側でも蹂躙されている。その事実は、本人の意識とは無関係に、倒錯的な被虐感情となって、快感信号を増幅させてしまう。メルツによって内と外から、熱い刺激に攻めたてられ、麗華の脳は次第に混濁して何も考えられなくなっていく。

「そうだそうだ……。ヤられている女は、黙っているより声を出した方が色っぽいぜ?」

『は……ぁん……あぁッ………ひッ』

いつもなら強気な台詞で返すところだが、今ではそれは不可能だった。苦しそうな、しかし艶めかしい嬌声を漏らすことは、もはや麗華の意志によっても止めることは出来なかった。

「さぁ、最後の実験だ。鉄屑ダッチワイフが果たして妊娠するかどうか……俺のザーメン注いで試してやるぜ!!!」

どぴゅっ!!ぶぴゅぶぴゅるるるる!!!じゅぶぷうぅぅっ!!

 

『……んひぃいいいいいいッッ!!!』

麗華は自分の下腹部にひときわ熱い液体が注がれるのを感じ、その瞬間目の前が真っ白になった。白煙を上げているフォージアンのメイン・ディスプレイは、ノイズとエラーメッセージで滅茶苦茶になっている。

メルツの射精は長い時間続いた。黒い棒が引き抜かれてもなお残る残液が、横たわる女戦士に降りかかる。マスクが、胸部アーマーのコアユニットが、ディスプレイが、たちまち白く粘り気の強い液体で汚れていく。破壊されたフォージアンの装甲の穴からもドクドクと白い液体が逆流してくる。

 

漆黒の戦士によって完全に征服されてしまったフォージアンは、大の字に拘束されたままぴくりとも動かない。

「……さて」

これまで自分の邪魔をし続けてきた紅い戦士を徹底的に蹂躙しつくしてやった。その余韻に浸った後、メルツはフォージアンの前にかがみこみ、顔と顔を近づけた。

「さっきは何と言っていたっけ?俺たちを抹殺するんだっけ?鉄屑ダッチワイフちゃん」

その瞬間だった。

『ジルベスター!!シューティングモード』

これまで壊れた人形のようにまったく動かなかったフォージアンが突然声を上げた。それに呼応して、床に転がっていた特殊警棒、ジルベスターがハンドガンへと形状を変え、紅い戦士の右腕を拘束していた触手へと光線を放つ。

「なっ――!」

一瞬のたじろぎが命取りとなった。フォージアンは自由になった右腕をメルツに付き出すと、そこから2本のワイヤーを放つ。黒い戦士が回避する間もなく、その細いワイヤーは、メルツの黒い鎧の隙間を通り、そこからのぞく二つの瞳を貫いていた。

「ギィャァァァァァァァァッッッッ!!!!!」

メルツが両目を抑えて絶叫する。その間をついて他の拘束も解き、ジルベスターを拾ったフォージアンは、いまだ苦しみに悶える黒い鎧に照準を合わせた。

『ジルベスター!ジャッジメントモード機動!ラスト・バレット!!』

青白い光の弾丸が、黒い鎧を包み込む。そして、その鉄壁の鎧を崩壊させていく……。

『……ッ』

麗華はマスクの下で顔をしかめた。フォージアン最強の必殺技は、メルツを完全に消滅させるには至らなかったのだ。プスプスと黒い鎧の残骸を纏った男が光の中から現れる。

「……畜生!!覚えていろッ!!!」

メルツは視界を奪われ覚束ない足取りで、よたよたと自分が来た穴から外へと逃走していく。だが、今のフォージアンにはそれを追いかける余裕はなかった。追いつめた強敵をみずみすと逃がしてしまう悔しさをこらえ、本来の目標であったイドラに、ジルベスターに残る最後のエネルギーを使う。イドラが消滅すると同時にフォージアンも紅い光に包まれ、変わって結城麗華が現れる。

 洞窟の壁に身体を預けて、このまま眠ってしまいたい。そんな麗華の脳裏に、一人の青年の影が映った。

「……休んでいる閑は無いわ。帰ったら、体内の洗浄に、スーツの修復……やることが山積みだから」

麗華は、弱った体を引きずりながら、青年の待つ駅のほうへと歩き出した。

 
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 日はもうすっかり暮れて、街には灯がともりだしている。

「……結城さん、まだかなぁ?」

僕は天を仰いだ。何度もあの地下道へと引き返そうと思った。しかし、たとえそこで彼女に危機が訪れていたとしても、僕には何も出来ない。僕に出来ることは、ただ彼女を信じて待つことだけなのだ。

 

「あれぇ?相原君じゃない?」

突然後ろから聞こえてくるハイトーンボイスに、僕は振り返った。

「え、七瀬さん?」

髪を金色に染め、垢抜けた都会風のファッションに身を包んだ女子大生がそこにはいた。七瀬夏生。結城さんと同じく、大学で同じ語学クラスをとっている。結城さんと真反対で社交的な性格をしており、男女問わず友達も多い。

「やっぱり相原君だ。こんなところで何してるの?」

可愛らしい小悪魔系の女の子が、じっと僕を見つめている。

「え、えっと……美術館に、ちょっと」

僕はとっさに、さっき訪れたエゴン・シーレ展のパンフレットを見せた。

「ふーん、相原君、こういうのが好きなの?」

「ま、まあ……」

七瀬さんがパンフレットを覗き込む。

「よくわかんない。興味ない」

さらっと言われた。

「そ、そう」

「ところで相原君、今からヒマ?私、予定が早く終わっちゃって、どうしようかって思ってたの。これからご飯でも行かない?」

「え、えーと……」

いや何を迷っているんだ僕は。僕には結城さんがいるじゃないか。いや別に結城さんと付き合ってるわけでも何でもないけど。でもなぜか七瀬さんにじっと見つめられると、妙に断りづらくなってしまう……。

ふと、あの冷たい視線を感じた。顔をあげると、横断歩道の向こう側に結城さんが腕を組んで立っている。僕と視線が合うと彼女は、溜息をつきながらすたすた歩きだした。

「!!!」

全身の毛が逆立つのを感じた。

「ご、ごめん!七瀬さん。このあと予定あるんだ!!」

「そっか。残念。じゃ、また今度ね。」

ひらひらと手を振る彼女。僕は横断歩道が青になるや否やダッシュ。一目散に結城さんを追いかけた。

「ゆ、結城さん。」

「何?」

「お、怒ってる?」

「何で」

「結城さん、怒ってる雰囲気だったから……」

「怒ってないわ」

「そ、そう……。あ、イドラの討伐はどうたった?」

ここで彼女はなぜか一瞬口をつぐんだ。

「……成功よ。問題ないわ。」

「そうか!よかったぁ」

僕は胸を撫で下ろした。

「……」

「……」

「……あ、あの」

「何」

「やっぱり、怒ってる?」

「……怒ってないって言ったと思うのだけれど」

「そ、そうだよね。あ、あのさ」

「何」

「……今日は、楽しかったよね?」

そう聞くと、彼女は一度下を向いて、それからものすごく殺意のこもった視線で僕を睨んだ。

「……最悪だったわ。」

「……えええええ!?!?」

 
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日が傾いて、そろそろ街に灯がともろうとする頃、公園の雑木林の陰で私は彼を見つけた。

「……ユ、ユーリか、助かった。」

両目を潰され、身体中に深手を負った男、メルツから、私はその一部始終を聞いた。

「……そうですか」

「頼む!本部まで連れて行って俺を治療してくれ!!そうすれば次は……」

「メルツ」

と私は彼の額に慈悲深く手を置いて言った。

「『次』はありません。あなたは慢心からフォージアンに敗北し、被験体の回収にまで失敗している。先生はこのような愚かな仲間を必要としていません。」

「ま、待ってくれ!!俺とお前は兄妹みたいなものだろう!!」

「……そうでしたね。さようなら。兄さん」

私は手に力を込めた。

灰になっていくメルツを見て私は悲しんだ。嘘ではない。これは明日の私の姿かもしれないのだから。

「……さて」

と私は伸びをしながら考えた。

「ヒマになっちゃったなー。どうしよう」

とりあえず駅前にでも行ってみようか――。私、つまり先生に選ばれし12人(今は11人になってしまったが)の一人、ユーリ・モナート――七瀬夏生は、薄暗い夜の公園から、灯のともる明るい街並みへと歩き出した。