その2
 私がメルツから着信を受け取ったのは、その日の午後だった。

「……確かにあなたは被験体301および298の回収に失敗しました。功を焦る気持ちもわかります、メルツ。しかし……」

と私は言った。

「ここは慎重を期すべきです。フォージアンとの対決は、私が到着してからにしてください。先生もそれを望んでいます。」

「お前を待ってたら被験体がまた破壊されちまうぜ。ユーリ」

兵士に監視させればよいでしょう」

「この前はその兵士に任せてたから失敗したんだろう!!」

端末の向こう側から怒号が聞こえた。

「そんなこと言って、手柄を横取りするつもりだろう?センセイのお気に入りが!被験体の回収は俺の役目だ!」

「ですが……」

「鉄屑ひとつスクラップするだけだろう。俺一人で十分だ!じゃあな!!」

説得を続けようとしたところで通話が途絶えた。私は溜息をついて端末をしまう。彼は誤解をしている。私は確かに先生の秘書だ。しかし、けしてそれ以上の存在ではない。これまでのデータの蓄積により判明している戦闘能力から考えて、メルツがフォージアンに敗北するなどとは私は微塵も考えてはいない。彼の実力は私たち12人の中でも屈指だろう。ただし……唯一の、かつ最大の欠点が彼にはある――詰めの甘さ。しかも度重なる任務の失敗によって、彼は苛立っている。

「フォージアン……か。」

私たちの事実上唯一の敵にして、恐らく私たちと出自を同じくするであろう紅い戦闘兵器。だが、それ以上のことを先生は私たちには教えなかった。「彼女」の目的が何かも。いずれにせよ彼女の登場以降、私たちの計画に遅れが出ていることは間違いない。けして油断してよい相手ではない。私はすぐに、出発するための支度を始めた。

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