虚人譚

虚人がヒロインピンチやその他のことについて記しておく場所。

特警機甲フォージアン Prologue その4

その1 その2 その3
 
 夏至を間近に控えた6月の太陽が漸く斜めに傾き、西の空がサフラン色に染まった頃。

上空で旋回を繰り返す黒と黄土色の巨大な蝶の目の前に現れたのは、再起動を完了させた深紅の戦士――フォージアンだった。メタルスーツのシステムは回復し、正常に稼働しているもように見えるものの、完全に元通りに修復できたとはいえず、左腕の傷や身体の焦げ跡はそのままである。

『来なさい――私は逃げも隠れもしない』

フォージアンは巨蝶に向かい挑発的に宣言すると、工場の中に姿を消す。まるで誘っているかのように。

手負いの獲物に、この期に及んでどんな小細工が出来るのだ――?と巨蝶は考えたに違いない。まぁ、そろそろいいだろう。あいつがどんな抵抗をしたとしても無駄だ。自分はあの極上の深紅の花弁を蹂躙し、カラカラになるまで吸い尽くしてやるのだ。

 勝ち誇る蝶はフォージアンを追って工場に飛び込む。狩るべき対象は追わなければならぬ。それは彼自身に埋め込まれたプログラムのひとつでもあった。

工場内は明り取りの窓がすべて閉められており、薄暗かった。突然ギィ――という音とともに扉は閉じられ、内部は暗闇となる。閉じ込めたつもりか――?しかしそれは自分にとっても好都合だ。相手はもはや袋の鼠。暗闇はむしろ相手の視界を疎外する。だが、相手の姿は自分からは丸見えだ。巨蝶の複眼が、光を放つフォージアンのメタリックボディを捉える。さっさと決着をつけてしまおうと翅を広げ、自身の必殺攻撃――鱗粉を放射する。再び深紅のボディが黄土色の粉で覆われ……爆発する!!

パン!!パン!!パン!!パン!!

さっきと同じではないか――学習能力はないのか?巨蝶は訝しんだ。確かに前回とは違い、腕をクロスしてガードの姿勢を取ってはいる。しかし、傷ついたスーツに追い打ちのように浴びせかけられる爆弾には到底耐えられまい。実際、衝撃で脚がよろめいていて、徐々に後退していっているじゃないか。

巨蝶の考えどおり、フォージアンはついに立っていることさえできなくなり、全身から白煙を立ち上らせながら膝をつく。獲物をしとめようと、蝶はフォージアンに飛びかかっていく。灯りに群がる虫の本能もあったに違いない。巨大な翅が光を放つ赤い花弁に覆いかぶさろうとしたとき……。

――高圧の水流が大量に、巨蝶に向かって放たれた。

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特警機甲フォージアン Prologue その3

その1 その2

「ふう……、よかった。水道が生きていて」

僕は工場の隅に水道の蛇口を見つけ、全身についた石灰を洗い流していた。服についている分は、まあ仕方がないだろう。帰りの電車で目立つだろうけど。

結城さんは腕を組んで、そんな僕を汚いものを見るような軽蔑の視線でじっと見ている。

「どうして、ここにいるの?」

まっすぐに追及され、逃げ場がなくなった僕が観念し、今日の出来事をすべて正直に話し始めると、結城さんはみるみる僕を見下すような顔になっていった。それから彼女はずっとこの視線なのだ……。

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特警機甲フォージアン Prologue その2

その1

 2か月後――。

あの日から僕は、波乱の毎日を過ごしていた――なんてことは全くなく、実際はごく平凡な大学生活を過ごしていたのだった。

 

『完全に見失ったわ、あなたのせいよ――』

あの赤色の戦士はそう言い放つと、依然として腰を抜かしたままの僕を置いて踵を返し、地下道の角を曲がって見えなくなった。

「あ、あの。」

未だ満足に身体に力が入らない僕は、よたよたと立ち上がって後を追ったのだが、当然追いつけるはずもなく、曲がった先にはもう誰もいなかった。ただ、ちょうどその角のあたりに、数枚の紅い花びらが落ちていた。辺りを見渡すがそこは地下道で、それらしき観葉植物の類もない。気になって手にとってみると、その花びらは手のひらの中で溶けるように消えてしまった――。

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ギャラリー
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  • 特警機甲フォージアンについて